気象用X-バンドマルチパラメータレーダーの運用
本グローバルCOEプログラムにおきまして、 降水の観測を目的としました気象用X-バンドマルチパラメータレーダー(以下、X-MPレーダー)を本学甲府キャンパスに設置し、 2009年4月中旬より運用を開始しました。 これまで甲府盆地には気象観測用レーダーが設置されておらず、詳細な降水情報を得ることが困難でした。 本レーダーの導入により、甲府盆地とその周囲でのより詳細な降水情報の取得が期待されます。
X-MPレーダーの観測原理
気象レーダーは、レーダーのアンテナから降水域に向かって電波を送信し、雨雲中の雨粒により散乱された電波を受信します。 電波の送信から受信までの時間と受信された電波の強度から、雨雲の位置とその雨の強さを知ることができます。 アンテナが常に回転しながら電波の送信と雨粒から散乱される電波を受信することで、高解像度かつ広範囲の降水情報を常時得ることができます。
本レーダーは2本の電波、水平と垂直の電波を送信し、雨粒からそれぞれの散乱される電波を受信します。 雨粒は様々な大きさを持ち、形も球から扁平と様々です。2本の電波による観測から、雨雲中に分布する粒の大きさや形状そしてそれらの不揃い具合を推定することができます。 この雨粒の情報を用いたより精度の高い降水量の推定が期待されます。
また、「ドップラー効果」を利用して雨雲中の雨粒の動きを観測することができます。 「ドップラー効果」は、サイレンを鳴らして移動している救急車が、自分から近づいたり遠ざかったりする時、その音の聞こえ方が変化する現象です。 動いている雨粒から反射される電波(動いている救急車から鳴らされるサイレン音)の周波数の変化(聞こえ方の変化)から雨粒(救急車)の動きを推定します。 雨粒は空気の流れに乗って動くので、雨雲中の気流を推定することができます。積乱雲の発達に伴い発生するダウンバーストや竜巻など突風の検出に役立てられます。
本グローバルCOEにおけるX-MPレーダーを用いた取り組み
1. 水害をもたらす豪雨の実態解明
近年各地で豪雨に端を発した水害が数多く報告されており、甲府盆地とその周囲の山岳域もその1つに挙げられます。
山岳域では、豪雨によって土砂崩れや土石流などを引き起こします。また釜無川や富士川など山岳を源とする河川では水量が増加し、氾濫を引き起こすことがあります。
一方、甲府盆地では近年局所で突発的に発生する豪雨(ゲリラ豪雨)が発生し、それに伴う急激な増水により都市型水害がしばしば引き起こされます。
予測される豪雨に伴い発生する災害の評価や、それに対する防災や減災の計画を行うためには、豪雨の実態を調べることは必要不可欠です。
また災害発生の予測において、豪雨がいつどこでどのような範囲で、かつどれくらいの時間をかけてどれくらいの量をもたらすのかという、定量的かつ詳細な情報も必要とされます。
そこで、最先端のX-MPレーダーを用いた降水の観測を行い、豪雨の構造や形成過程などの解析を行います。
また、降水量や降水の範囲などの定量的かつ高精度な評価方法の開発と、その予測可能性について検討します。
2. 突風現象の解明と検出
また、倒木や家屋の破損など風災害を引き起こすダウンバーストや竜巻と言った突風は、積乱雲の発達に伴い発生します。
積乱雲の発達の激しさと寿命の短さから、突風はごく局所かつごく短時間に非常に激しい風をもたらすので、その検出や予測は非常に困難です。
そこで、X-MPレーダーによる高い時間分解能と空間分解能による観測から、突風を発生させる雨雲の構造と突風の形成過程を解析し、レーダー観測による突風の検出への応用を行います。
3. X-MPレーダーの防災・減災への活用
X-MPレーダーにより得られた降水に関するデータを、本学で開発している水文モデルと氾濫モデルに応用し、土砂災害と内水災害に対する避難警報システムの開発への応用を検討します。
そして甲府盆地を対象とした水害対策モデルの開発を進めていきます。